花研コーヒーブレイク
クチナシの香り
2009.06.23
夜、駅から自宅まで外套のない暗い道を歩いているとき、ふと周りが明るくなったような気がした。しかし実際には明るくなっていない。どうしてなのか一瞬わからなかったが、すぐに解決した。
クチナシの香りがしたのだ。
良く知った濃厚なクチナシの香りがしたために、瞬間的に頭の中でクチナシの白い花の映像と結びつき、見えた気がしたのだ。
立ち止まり目を凝らしてみると、たくさん咲いているではありませんか、クチナシたちが!
クチナシの英名はご存知の通りガーデニア(gardenia)。アメリカの植物学者アレキサンダー・ガーデンが最初にこの花を記録した功績に因んでいる。
和名のクチナシは「口なし」からきていて、果実が熟しても裂けないからとか、果実を梨に見立てて上部に残っているガク片を口と呼び、口を持つ梨の意味であるともいわれている。
その香りは少しグリーンノートが混じった甘いフローラルで、その濃厚さはエキゾチックな南洋の花を思い起こさせる。
主な香気成分はベンジルアセテート、リナロール、リナリルアセテート、ターピネオールなど。ベンジルアセテートはイランイランやジャスミンの香気にも多く含まれている。
また、中国では、梅、百合、菊、桂花、茉莉花、水仙とともに“七香”とされているほど芳香花として名高い。
渡哲也の「くちなしの花」で悩殺されて、クチナシをお庭に植えていらっしゃる奥様も多いかもしれない。
クチナシは数多くの品種と変種があり、市場では切り花でも八重咲きなどが出回って、お庭やベランダに十分なスペースがないご家庭でもクチナシの香りを気軽に楽しめる。
ちなみに、私はこのフルボディなクチナシの香りが大変好きである。
それなのに、ある日知人が隣でクチナシの話をしていて、横で聞いていたためにそれを聞き間違えてしまい、突然話題を振られ「え?シナチクのことですか?」と言ってしまったときは、さすがに失笑を買った・・・。あれほど馥郁とした香りを持ち、白く肉厚な中弁を有した魅力的な花のことを、ラーメンに乗っているシナチクと間違えたとは、色気も何もないものである。
(な)
クチナシの香りについては、こちらをご覧ください。
(参考文献:『香りの百科事典』)