花研コーヒーブレイク
隠語大辞典による「符牒(ふちょう)」
2024.08.06
こんにちは。みんなの花研ひろばです。
先日、都内外出の折のちょっとした隙間時間で図書館に行き、調べものをしました。ちょっとした個人的な行動パターンなのですが、外出の時は遅刻しないよう早めに出かけて、時間が空いたらその地域地域の図書館に入って、郷土の資料などを漁るのです。花き文化の郷土史のような痕跡を探すためです。とはいえ花を主題にした地域文化史が一冊にまとまっているドンピシャの書籍に出合うことはまずありません。
お祭りお盆、お彼岸の話とともに、大抵は花が登場しますので、見るべき書籍は地域・郷土史、あるいはお祭り系の本だったりしますし、宗教行事という場合もあったりします。何冊もぱらぱらとめくっていても埒があかないときもありますので、その場合は司書の方に伺います。図書館で闇雲に調べものをしてはいけません。司書の方に伺うのが正解です。とはいえ決定打というのはなかなかありませんから、ある程度の方向性・示唆をいただくところまでです。そのうえで書籍を探しますと、地域の花き文化の痕跡を探すことができるのですが、次に問題となるのが自身の性格です。
生来の「寄り道DNA」(あれまー)がありますので一直線に目的の資料には向かいません。どだいDNAだって螺旋構造しているのですから、オラも螺旋の回り道~♪って酔っぱらいか!?結局はぶらぶらと書庫を眺めて面白そうな本があれば手に取るという塩梅です。その日は大した時間もなかったので、司書の方に伺うのも憚られる気がしましたし、図書館には大勢の先客が涼を求めて居座ったりして図書館の方々も忙しそうでした。そこで、勝手に見て回るとし、スタート地点として辞典類がある棚から入りました。
眺めていたら掲題の辞典にぶちあたりました。はい、ここからやっと本題です。イントロ長すぎじゃね?
『隠語大辞典』(皓星社) です。厚さ約7cm。感覚”デデーン”じゃない??
直感的にいかに大きいか伝わりやすいよう、あえて隣にカップコーヒーを置いてみました。
「隠語」とはその通り隠し言葉のことで、特定のコミュニティーだけで通用するいわゆる業界用語です。人間社会を考察する上で欠かせないコトの一つですね。その言葉を様々な資料から収集し・解説をつけた稀な辞典です。当然のように市場は会員制ですから、花の市場でも野菜の市場でも隠語は使われております。
やや薄れつつある文化伝承ですが、セリ場などでは取引の際にセリ人の発声とともに、今でもその隠語による数字を耳にすることができます。生鮮業界は符牒の宝庫なのです。お寿司屋さんの会計の際に隠語でナンチャラカンチャラ(まあこれも数字を示す隠語だったりするので、花市場に勤めていたりするとだいたいわかってしまうのですが)とお店の人同士で使っていたりします。
隠語事典によると、花のセリで8を示す「バンド」もしくは「バンドウ」の由来としては、坂東の八州(関東地方は八か国からなること)からだろうとあります。関東は昔武蔵・相模・安房・上総・下総・常陸・上野・下野の八か国という分類でした。こういうことがわかるんですねえ。
7を示す「セイナン」は時計の針の位置ですね。それなら南西ではないかと思いますが、業界人はひっくり返して言いますね。ギロッポンとかザギンとか??ですから南西がセイナンになるようです。
気になる符牒を語源とともに調べることができますし、最後の方には付録図表として20ぐらいの業種における数の符牒一覧が出ていました。花屋さんの符牒についての記載がありませんが、青物商という分類での符牒があります。すると、1は「む」、「そく」、「ひん」、「シ」などといくつもあります。同じ青物でも複数あるのはコミュニティーの違いでしょう。一種の方言ですからね。頻度が高いも尾ほど、地域やコミュニティーによってパターンが存在するということかもしれません。
とにかく今でも符牒が使われているというところに歴史との時間的なつながりを感じて面白いです。こういうコミュニティー用語というのはきっとEUなんかのギルドを起源とする団体にもあるんだろうなあ、と思ったりしています。イタリアの靴職人はきっと数の数え方が普通とは違うと思うな~。
この夏のおすすめ図書でした。
では、ごめんなすって。