花研コーヒーブレイク
つれづれなるままに
2011.08.10
3月の震災に原発事故、国難に瀕して日本の地殻構造に興味を持った方は少なくないでしょう。
私は地震の専門家ではないので、本や新聞で知り得た情報の受け売りにすぎませんが、例えばヨーロッパの地質は成り立ちが古く大変盤石なものなのだそうです。シチリア島などの活火山を抱える地中海沿岸の比較的新しい土地ではも2億年前、アルプスより北は5-10億年前以上、更にスウェーデンやフィンランドなどは約20億年前に形成された頑丈な地盤で、北欧に住む人に聞けば「災害といえば雷くらい。地震も経験したこともないし、洪水や土砂崩れなど“災害”というものは殆どない」といいます。
一方日本は、4つのプレートがぶつかり合って隆起し始め、3,000万年前(“20億年前”に比べればつい最近!)に現在の形になったと言われているようですが、わずか3,000年前までは海岸線も移動して決まっていなかったような桁違いに若い土地です。 3月の震災以降も台風に洪水、大雨、土砂崩れなどなどこの半年間だけでも日本全国災害続き。災害大国日本で原発を作るということは、ヨーロッパのような土地に原発を建設するのとはわけが違います。
国民が愛する「温泉」はこの地殻構造が故にあやかれる恩恵ではありますが、昨今の原発問題もあり、やはり日本の地殻構造を知れば知るほど気持ちが沈んでしまいます。
暗い話はさておき、このような土地に移動してきてまず農業を始めた日本人は、その技術に大変長けていて、特に稲作の技術については既に土の見分け方から苗の作り方、肥料のやり方や害虫を防ぐ方法など、世界でも最先端を行ったいたようです。時代を下って江戸時代、農具は昭和初期とほぼ変わらなかったほど進んでいたとも言われています。
この稲作を作る精神性や技術から日本人の国民性が生まれたというのは、数年前の小欄で紹介したところではありますが、これほど稲作が生活の基本であった日本人がその農作業の適期を知る手段としていたのは、移り変わる季節と空気感を肌で読むことでした。やがてそれが体系化され五節句や雑節などの暦ができていきましたが、地域によってもそのタイミングは変わってきますし、毎年変わる気候の中で最も信頼できる適期の通知者は「花」でした。花芽が出たり、開花したりするのを見て、「今年は梅が咲くのが遅いから、少しタネまきを遅らせよう」「ウツギのツボミが白くなってきたからそろそろ田植えをしよう」などと判断していたのです。
今、自然の花の開花を農期の目安にしている方はあまり入らっしゃらないかもしれませんが、鶯の鳴き声や蝉の鳴き声を聞いて感じるのと同様に、花の芽吹きや開花で今年は季節の到来が早い、遅いなどと思うことは多々あると思います。
このように花が季節の流れを教えてくれて、農業に関しても知恵を授けてくれたことから、花には精霊が宿っていると信じて季節の節目で花を使って儀式を行うようになりました。
また、花や植物は日本人の生活を助けるだけでなく、厳寒の冬にも青々とした葉を付ける常緑樹はそれを見る人たちに生命力を感じさせ、越冬後に見事な葉を付ける木々は人々に精神的なエネルギーを与えてきました。このたびの震災後、壊滅的とも思われる状況で芽を出す緑、津波に浸かっても開花するカーネーション、再生不能と思われた宮城野の干潟に戻り始めた自然・・・これらを見て“私たちも頑張ろう”と思う気持ちと同じですね。
このように昔から日本人の生活を助け、精神生活をも助け欠かせない存在となってきた花ですが、この花の文化が私たちの生活の中ででいくら発達しようとも国民の生活を脅かすこともなければ、人々の健康を害すこともないし、国家を崩壊させることもありません。花だけでは空腹を満たすことはできないかもしれませんが、花の産業がいくら進歩したとしても、人類の生命を危険に晒すことはないでしょう。このようなことや日本における花と生活文化の関係を考えると、日本で花き産業に従事するというのは、ほかの国で花き産業に従事することと少し事情が違うように思っています。これからも自信を持って花の文化の普及に努めてまいりたいと思います。