花研コーヒーブレイク
花を詠った古典 “アジサイ”
2011.06.02
今年は例年より少し早く梅雨入りしました。
温度も湿度も高く、不快とされるこの時期に、私たちの心を和ませてくれる花の一つはアジサイではないでしょうか。
日本にはアジサイを名物にした寺院や植物園も多く、またアジサイを詠った古典文学も多く残っており、古くから多くの人に愛され続けています。
「言問はぬ 木すらあぢさゐ諸弟らが 練りのむらとに あざむかえけり」 (『万葉集』大伴家持)
物言わぬ樹木でさえもアジサイのように移りやすいものがあると解釈すると、色変わりする特性が昔から人々に印象的で、家持の心を捉えたのでしょう。その特性のように今でもアジサイは「七変化花」「八仙花」とも言われます。
「あぢさゐの 八重咲くごとくやつ代に をいませ我が背子見つつ偲はむ」 (『万葉集』橘諸兄)
「八重のごとく咲く」とは花が群がって咲く様子を形容したものです。
アジサイの語源は「あづさヰ」。「あづ(ぢ)」+「さヰ」ですが、「あづ」とは小さいものが集まることを指します。「さヰ」は「藍」、つまり青い小花が集まったものという意味です。
土壌が酸性の日本では、ほとんどが青いものでした。(逆にアルカリ性が強くなると、同じ品種でも赤っぽくなります)
「あぢさゐの よひらの山に見えつるは 葉ごしの月の影にあやるらん」 (久安百首)
黒い夜空に煌々と月が浮かび上がり、その月光に照らされるアジサイの姿を見ていた詠み手の目線が良く伝わってきます。
長雨のこの季節、アジサイをよく見つめるのもひとつ趣のある過ごし方かもしれません。
(ここほれわんわん「花暦カレンダー」2010年6月コラムより)