花研コーヒーブレイク
匂いか香りか
2016.09.21
匂いか香りか、明確な線引きがわからず表現に困ることがある方も多いと存じます。
そういうアタクシもその一人。
『ことばの由来』という本によると、ニオイもカオリも元は嗅覚を表現する言葉ではなかったのだとか・・・(@Д@!?
①「ニオウ」
ニオウの古語ニホウ。元々「色が美しく映える」という意味。
ニホウの「ニ」は「丹」(赤色)のこと。
ニホウの「ホ」は「秀」(際立っている)の意味。
つまり赤色に輝くように色付くことが「ニホウ」。
「咲く花のにほふがごとく」といえば、「美しい色に輝く」ことを表しています。それが転じて、香りが目立つという意味になりました。つまり、ニオウは美しさが溢れ出すようなものの表現に用いるのです。
このときニホウは「匂う」と書きますが、好ましい芳香の表現に限られていました。刀刃にほんのりと見える文様にもこの表現を用るようです。
一方、好ましくないニオイは「臭う」と書きます。「不正が臭う」と表現するのは「不正の悪臭がする」ということでしょう。「不正が匂う」とは書きません。また、「臭」の字は好ましくない香りの意味で「くさい」と読みます。なんとなく無意識のうちに使い分けているような気もしますね。
②「カオル」
「カオル」は古語「カヲル」から来たものですが、「煙や霧が立ち込め漂う」ことを指していました。物の気が漂うことから「香気を感じる」という意味に転じていきました。
なるほど、それで「お匂」ではなく「お香」というわけですね。
「沖つ藻も なみたる波に 潮気のみ 香れる国に」
と万葉集にありますが、「香れる国」のカヲルは、潮気が立ち込めることを意味しているのだそう。
また、平安時代にはカヲルは目元など顔立ちのツヤツヤして美しい形容に使っていました。だから現在でも男女問わず「カオル」という名前の美男美女がたくさんいらっしゃるわけですね。
では、純粋に嗅覚の「におい」を表すにはどのような言葉を使っていたかという疑問に思いますが、それは「カ」(香)という一音節の単語だったそうです。
「カ」は主に植物の香りを指したもの。とりわけ梅や橘の香りは好まれたようで、物語や歌に多々登場します。カグワシは「香・妙し」と書きます。
なるほど、植物の香りを指した言葉は、語源を辿ればニオウもカオルでもなく「カ」だったのですね。
ただ私たちが花を香りを嗅ぐときは、その姿もまた一緒に目に入るわけでし、その花がくゆらす見えない煙のような雰囲気もありますので、「匂い」や「香り」もまた間違いではなのでしょう。
参考文献:『ことばの由来』堀井令以知著