花研コーヒーブレイク
密閉空間のシャクヤク
2015.05.28
通勤で日々JR浜松町駅を通ります。
JR浜松町駅は北口の改札を入った正面と、南口改札前にいつも生け花が展示されていて、通り道に近い南口改札の作品はたまに覗いて帰ることがあります。
シャクヤクが旬のこの季節、ちょうど浜松町南口の生け花展示も、3本のシャクヤクのみのシンプルな作品でした。
・・・ところが!
そのシャクヤクはほとんど花弁が落ちて、枯山水、もしくは落ちたシャクヤクの花弁のカーペットを趣向するものとなってしまっていました。
更に2日後はこんな感じ↓
せっかくの作品が、なぜこのような状況になってしまったのでしょうか。
これは、シャクヤクの性質とシャクヤクを置く環境に理由があります。
花弁を落とした主な原因はエチレンであると考えられます。エチレンとは植物自ら出す老化ホルモンの一種です。シャクヤクの性質として、エチレンに対する感受性はやや高く、一定の濃度を感知すると花弁が落ち始めてしまいます。
また、今回シャクヤクが置かれた環境は、写真からは分かりませんがほぼ密閉されたガラスのケースに入れられています。
エチレンの感受性が強いシャクヤクを、ガラスケースに閉じ込めてしまったので、空気が循環することなく、少しずつ出されたエチレンがケース内で蓄積、充満して、花弁の離脱に繋がったと考えられます。
これらのシャクヤクにあ、エチレンの感受性を下げるSTS処理が施されていなかったものと思われます。カーネーションやカスミソウ、デルフィニウムではSTS処理は標準的になってきていますが、実はシャクヤクではまだSTS処理を実施している生産地は意外と少ないのです。
このような状況も考え、できれば生産者様には是非STS処理をお願いしたいと思います。
また、一方でユーザーさんには、展示する環境をご検討いただきたいと思います。できれば、密閉されたガラスケースなどではなく、空気が動く状況、例えば天辺、あるいは側面が開いているとか、扇風機などで風が循環する状況を作るなど、エチレンが籠らない環境に配慮していただきたいと思います。空気が動かないのは、シャクヤクだけでなく、全ての植物にとってあまり好ましくない状況です。
また、展示用などであれば、産地側のSTS処理だけに頼るのではなく、ユーザーの段階で後処理(切り花栄養剤)と組み合わせることによって、グッと品質保持効果が高まります。展示中に花弁が落ちたりすることも防げ、大輪で見事のシャクヤクを皆様にご覧いただくことができるでしょう。
ちなみに大田市場に展示中のシャクヤク。エチレンが籠らなければ、基本的には最後まで咲き切ります。
いずれも人のお顔くらい大輪に咲き乱れていますが、アタクシの拙いフォトテクではその見事さを伝えきることができず、残念です。
とはいえ、何をお伝えしたいかというと、このように風が通る空間であれば、120%開花しても、観賞期間中であれば花弁が散ることはないということです。最後までシャクヤクの素晴らしさをご堪能いただけるものと思います。
(大輪の様子が伝わりにくいかと思いまして、花研がスカウトした新人モデルの「ハシモト君」にシャクヤクの展示の中に立ってもらいました。)