OPERATIONAL PERFORMANCE花研コーヒーブレイク

【週末特別編】秋のホラーな物語

2024.10.05

はい、花研の一研究員です。最近本屋さんで思うのですが、ミステリーやホラー小説が結構多いなあということ。

リアルな生活がデジタル化できつきつです。

ストレス解消が必要ということなんでしょか。科学が進み、インビジブルで

ホラーへの欲求が高まっているということなのか、忘れないでねという供給サイドからの提案なのか。

先日は驚愕の童話風ストーリーで秋の夜長を揺さぶってみましたが(ほんまかいな?)、今回はどうでしょうか。

 

・・・ ・・・ ・・・ ・・・

「町の肉屋さん」

その町の肉屋さんとうとう肉を売ることをやめようと思いました。

というのも、この町に引っ越してきてからさっぱり肉が売れません。

以前は隣町に住んでいました。隣り町には数軒の精肉店、またスーパーもあり肉の販売は競合でひしめきあい、とても大変でした。

そこで、毎週毎週工夫をこらしたお惣菜や特売セールを何年も何年も続けていたのですが、心身共にすっかりとくたびれてしまいました。

 

ある日、車で隣町に来た肉屋さんはなぜか隣町に精肉店が無いことに気付きました。それから一軒だけあるスーパーへ入って精肉売り場を見ると、それほど新鮮でもなく、安くもない肉が並んでいます。これはこれは・・・肉屋さんはほくそ笑みました。隣町にはチャンスがあるぞ。そこで早々にお店をたたんで、隣町に精肉店を出店することにしたのです。

 

開店に合わせておいしいメンチカツやコロッケなどの総菜、お得な肉のセールなどをチラシで案内し、自信を持って始めました。

それがどうでしょうか、お客さんがさっぱり来ないのです。道行く人は多いのに、だれも見向きしません。せっかく作ったお惣菜が台無しです。しばらくセールをしたり、チラシを打ったりしましたが効果はまったくありません。

 

これは一体全体どうしたことか。

 

肉屋さんには見当もつきません。

ふと、スーパーのことを思い出しました。1軒だけあるスーパーではお客さんは何を買っているのだろうか・・・。いてもたってもいられなくなった肉屋さんは、店を早じまいするとスーパーに駆けつけました。

ちょうど夕刻黄昏時です。お店では大勢の買い物かごが揺れています。どのカゴにもキャベツやジャガイモ、キノコ、生鮮品でひしめいていますが、不思議なことにどの買い物かごも野菜で一杯です。

 

精肉コーナーに向かうと、自分の店と同じように誰も肉に見向きもせずに素通りです。肉屋さんは驚きましたが、しばらく見ていてがっかりしながらもわかりました。

 

「この町の人は肉を食べないんだ・・・」

 

お店に帰った肉屋さんはこれからのことを必至で考えました。そして、あることを決意します。

そうだ、これからは美味しい野菜を作って売ろう。野菜が好きな人たちが大勢いるのだから美味しい野菜には需要があるはずだ。

そう考え、お店の裏の庭で野菜を作りはじめました。

最初は見様見真似、いろいろな肥料をあたえて丁寧に育てると、それはそれは美味しい野菜を作ることができました。試しに精肉店の看板ながらお店に並べるとそれまで来てくれなかったお客さんが来てくれるようになりました。肉屋さんはとてもうれしくてうれしくて涙が出ました。

 

それから肉屋さんは、もっとたくさんの美味しい野菜を作るために、広い畑を借りて栽培するようになりました。肉屋さんの野菜はとてもおいしいのでとっても繁盛するようになりました。

実は肉屋さんの野菜栽培には秘密があります。それは肥料です。肉屋さんは特別な方法で精肉から肥料を作って植物に与えていたのです。肉をアミノ酸に分解し、植物に与えると、どんな野菜も美味しく育つことに気が付いたのでした。

 

肉屋さんは肥料作りの天才になったのでした。しかし、それも長くは続きませんでした。というのも肉屋さんの冷蔵庫にあった肉のストックがとうとう無くなってしまったからです。肥料をつくるために仕入れた肉を使ってきたのですが、その豚の一頭もなくなり冷凍庫は空っぽになりました。

肉屋さんの野菜を食べたいお客さんは毎日大勢きてくれるのに、これではお客さんに喜んでもらえない・・・肉屋さんは悲しくなりました。

 

その晩、肉屋さんは一通の貼り紙を店頭に掲げました。その日から肉屋さんはいなくなりました。

貼り紙にはこう書かれていました。

 

「1か月後、私の畑に来て好きな野菜を収穫してください、みんさん採り放題です。肉屋の店主より」

 

 

大勢の人が一か月後、肉屋さんの畑に行くと、そこにはおいしそうな野菜がたくさん実っています。

我先にみんなが収穫します。どれもおいしそうな色です。その場で食べる人もいます。畑の縁にはとてもきれいなコスモスが咲いています。あまりにも綺麗なのでそのコスモスを採っていく人もいます。一人が採りだすと、私も私もと次から次へと採る人が出てきて、コスモスもすっかり畑に姿が見えなくなるまで収穫されました。

 

こうして肉屋さんの畑はすっからかんに収穫されました。

肉屋さんはこんなにおいしそうや野菜にきれいな花を最後にどうやって育てたのでしょうか。実は肉屋さんは貼り紙を店頭に掲示した後、自らが肥料になる決心をしたのでした。自分がバラバラのアミノ酸にまで分解されて畑に肥料として撒かれるようにしたのです。

 

きれいな花や野菜を見たらご用心。でもその素晴らしさと対峙したとき、誘惑には勝てませんね。

 

梶井基次郎『桜の木の下に』より着想を得て。

ごきげんよう。

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