花研コーヒーブレイク
マスクと紀香と美人 ~週末閑話~
2016.04.17
紀香ちゃんの結婚会見があった週末、商店街のクリーニング店に冬物のコートを出しに行った。
その商店街の中心となる大通りには、チェーンのクリーニング店がいくつも軒を連ねる。今の場所に引っ越ししたばかりのときチェーンのクリーニング店にお願いしたが、全く汚れが全く落ちないことを不満に思って以来、大通りから1本奥に入ったところの老舗クリーニング店にお願いしている。70歳近いご夫婦が営んでいて、昭和の時代から大切に使っているような黄色い看板を横に店を構える。
「こんにちは~」
といつものように店のドアを開けると、奥から「はーい!」と元気な声で返事がくる。
受付は明るくて気のいい奥さんである。いつ行ってもレジ横には必ず花が飾ってある。気付けばもう何年も通い続け、世間話もする仲。名前も覚えていてくれて、こちらが名前を言わなくても、すらすらと受付票を書き始める。70歳の上でも尚その記憶力はさすがとしか言いようがない。
いつものようにお願いしたい衣類を預けると、奥さんが受付票を書き始めるだが、なんだか今日は様子がぎこちない。自信なさそうに小さい声で私の名前をぼそぼそと曖昧に口にする。
そうです、そうですと正解のピンポンチャイムのように返事をする。そうか、ぎこちなかったのは、名前に自信がなかったからだったのか。髪の毛を下して、マスクをしていたから、いつもと雰囲気が違う上に、顔がよく見えなかったのだろう。
「マスクしていたから誰だか分からなかったわよ~」
とクリーニング店の奥さん。
やはり。
「あ、そう?紀香ちゃんだと思った?」
とすかさず私。
「そうよ、美人かと思っちゃった」
ナヌ?・・・正直にもほどがある。
紀香チャンは否定しても、美人までわざわざ否定しなくてもいいじゃないか。長年商売してんだしさ、もう少しお世辞も覚えようよ。正直ってのは時として残酷なものだ。
いやいや、もしかすると、その正直さで長年地元の人に信頼され商売をしていらしたのかもしれない。
今回は周りにチェーンのクリーニング店がどれほど乱立しても、長年商売を築かれる立派なご夫婦に敬意を表して、美人じゃないと言われたことも水に流すことにする。クリーニングだけにそんなやり取りもきれいさっぱりクリーニングするのがお付き合いの基本なのかな。